ラブソングは舞台の上で

私と晴海は顔を合わせ、首をかしげた。

迷惑をかけてしまったことは事実だから、罰があると言われれば、甘んじて受けよう。

……そう思っていたのだが、高田さんの言う「罰ゲーム」は、精神的にかなりキツいものだった。

「違う違う。もっと色っぽく、しなやかに。ガバッといって、じっくり近付くんだよ」

端的に表すのなら、キスシーンの練習。

実質を示せば、羞恥プレイとも言える。

舞台では実際にはキスしない。

フリだけするのだが、これがなかなか難しい。

美しいシーンにするためには、それなりに美しくキスの動きをしなければならない。

加えて、どの客席から見ても触れているように見えなければならないから、かなりギリギリのところまで顔を近づける。

私は目を閉じ受け身になっているだけでいいが、晴海は私を支えながら距離感まで掴まねばならない。

「もっと近く」

「えっ? これ以上?」

「なんなら実際にしてもいいんだぞ」

「えっ! えっと、それは……」

晴海は何でもすぐに顔に出るから、私たちがデキていることなど、さっき私たちが稽古場に入ってきた時からみんな察している。

その上で、こうしておちょくられているのだ。

「はい、もう一度遠慮がちに抱き合うところから」

またやるの?

……なんて怖くて言えないけど。

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