ラブソングは舞台の上で

言いながら晴海が私を見るもんだから、私はササッと視線から逃げる。

だってこのタイミングで私を見るなんて、「そうだよな」と私に同意を求めているのと同じ。

ここで私が同意したり照れたりすれば、みんなに「私たち、しました」って言いふらすようなものだ。

しかし目敏いタカさんは私の動きに気が付いていたようで、私と目が合うなりニヤリと笑った。

「ふーん」

思わず目を逸らす。

人生経験豊富なバツイチ子持ちのタカさんには、バレたと見て間違いないだろう。

稽古場はしばらく、晴海イジりで笑いに包まれていた。

その間に、ともちゃんが自分のヘッドキャップを完成させた。

白い布にレースを縫い付け、ゴムを入れてきゅっと絞っただけの、簡易的なキャップ。

アクセントに黒いリボンをあしらっている。

手縫いでここんなのが作れるなんて器用だなぁ。

私は裁縫なんてほとんどやったことがないから、てんで自信がない。

完成した衣装や小道具は、この稽古場に持ち込まれる。

大きなもの以外は、普段私たち女性演者が更衣室として使う小部屋に収めている。

はじめのうちは物がほとんどなくて広かった更衣室が、今では衣装を着たトルソーが5体も並んでいるからとても狭い。

タカさんが着る、威厳に満ちた王様の衣装。

堤くんが着る、スマートな執事の衣装。

晴海が着る、爽やかで華やかな王子様の衣装。

恵里佳ちゃんが着る、艶かしい女王の衣装。

ともちゃんが着る、上品で落ち着いたメイドの衣装。

私のドレスだけが、未だに完成していない。

私にだけカツラがあるらしいが、それもまだ完成していないそうだ。

「よし、休憩終わり。稽古続けるぞー」

「はい!」




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