ラブソングは舞台の上で




翌日、会社にて。

「他に何か連絡がある人はいないかな?」

工場長がそう言うのを、私は再びドキドキしながら待っていた。

「はい!」

私が手を上げると、事務所内が少しざわめく。

今度は何を言い出すのかと、若干の期待が混じった視線を感じた。

「じゃあ牧村さん、どうぞ」

「あの、先日お話したミュージカルのことなんですけど」

「うん」

「私、ヒロインに復帰することになりまして」

「ええっ?」

事務所がどよめいた。

前回以上のサプライズという意味では、期待に応えられたようだ。

「牧村さん、歌うの?」

「歌いますし、踊りますよ」

見られるのは今でもちょっと恥ずかしいと思ってしまうけれど、でも、きっと良い舞台になるから見にきてほしい。

「牧村さんが出るなら、僕も見たいんだけど」

工場長がそう言ってくれたのを皮切りに、この日だけでチケットがノルマより10枚多く売れた。

驚いた。

みんなが応援してくれていることが嬉しい。

私がミュージカルなんてガラじゃないし……と構えて、損をしていた。

見に来てくれるみんなのために、最後までちゃんとやりきろう。

私が舞台で歌うのは、なにも晴海のためだけじゃない。

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