ラブソングは舞台の上で

“動ける”かとか“汚すかも”より、“似合うかどうか”を先に心配すべきだったかもしれない。

ピンク色の服なんて、もう何年も着ていない。

急に不安になって、ため息が出た。

すると、晴海が私の手を掴んで歩みを止めた。

私は自分が歩いていた反動で、引っ張られるように晴海の胸に飛び込む。

晴海はそれを狙っていたのか、そのまま私を抱きすくめた。

「ちょっと、晴海?」

こんなところで何するの。

人気の少ない道だけれど、人がいないわけではない。

困惑していると晴海は私の耳元で笑っていた。

「俺にとって明日香はお姫様だよ」

「はぁ? バカじゃないの? 離してよ」

男くさい顔をしているくせに、よくそんな歯の浮くようなセリフを口に出せたものだ。

「バカだもーん。離したくないなー。付き合ってるのにデートもできないし、こうするのも久しぶりだし」

そう言って、耳の下にチュッとキスをする。

そこから全身に甘い痺れが走った。

最近は稽古も大詰めで忙しかったから、職場と稽古場の両方で揉まれて、クタクタになって帰宅する日々が続いていた。

楽日までは晴海とゆっくり過ごすタイミングもなかなか掴めない。

「稽古ではよく抱き合ってるじゃん。ガバッとして、ぎゅっとして、くるくる回ったり」

「あんなのポーズじゃん。俺はこういう風に、美しさとか気にせずピッタリくっつきたいの」

「わかったから、ここではやめて。ほら、今自転車の男の子が見てた」

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