ラブソングは舞台の上で
ピンクが似合うと言われたのは初めてだ。
いや、こんな可愛い色の服をほとんど着たことがなかったのだから、当然か。
「いやいや、ピンクなんてキャラじゃないし」
ピンクはもっとキャピキャピしてて、女を楽しんでいるタイプの人の色だと勝手に思っている。
「そんなことないよ。フリフリしたピンクの服はキャラじゃないけど、明日香ちゃんみたいなセレカジ系の服だってあるんだよ」
「私、セレカジなの……?」
会社に着ていけて脱ぎ着しやすいものを選んでいるだけなのだが。
独り暮らしで贅沢できないから大体安物で揃えているし、セレブ感などない。
「でっかいサングラスかけたら芸能人の私服っぽいよ」
「そんなの持ってないよ」
「じゃあ今度一緒に買いに行こう。ピンクのトップスも」
話しながら、キャバ嬢ばりの盛りヘアカツラを着け、踊ってもズレないようピンで留める。
カツラは黒のネットキャップに明るい茶色の毛を編み込んだフルウィッグで、襟足は弾むがトップの方はガッチガチに固めてある。
見た目ほど重くはないし、装着も簡単だった。
完成したアンジェラ姫は、衣装や髪型が派手すぎて、私自身の要素がほとんどなくなってしまった。
だけど、これくらい変わってしまう方が思い切って演じられる。
「みんなー。明日香ちゃんの準備できたよー」
更衣室から出ると、まず最初に王子様姿の晴海が目に飛び込んできた。
肩章付きの赤いガウン。
その中に光沢のある緑地に金色で装飾された軍服風のチュニックを着て、白のパンツ、ダークブラウンのロングブーツを履いている。
手には甲に飾りのある白い手袋。
幼少期に『いつか迎えに来てくれる』と信じ、憧れていた王子様そのものだった。
晴海は私を見るなり目を丸くした。
「えっ? うそ、明日香? まるで別人じゃん。うわーうわー!」
残念な反応に、周りがどっと笑いだす。
かっこいい王子様が台無しだ。
「あんたね、もっと何か気の利いた言葉は出なかったの?」
可愛いとか似合うとかキレイとか。
私だって女だ。
こういう時くらいそういう言葉を言われたかった。
「いや、だって俺、普段の明日香が好きだし」
晴海の不意打ちに私が照れた瞬間、その場にいた全員からツッコミが入った。
「ノロケかよ!」