ラブソングは舞台の上で

私たちはこの時点でまだ、付き合って1時間弱。

なのにもう劇団のみんなから完全にバカップルだと認識されてしまった。

ラブラブだね、幸せだね、と祝福半分呆れ半分の言葉が次々にやってくる。

所構わずベタベタしたがったり、こうして劇団のみんなに惚けてみたり。

恥ずかしいのに、彼にやめてと強く言えないのには、理由がある。

それは私が、これらが全て晴海のパフォーマンスであることに気付いているからだ。

私たちは、遅くとも来月下旬には離れ離れになる。

晴海は卒業して東京へ去り、私はこの町に残る。

それからのことはまだ何も話していない。

今こうして私との時間をより濃厚に紡ごうとしているのは、もしかしたら……。

いやいや、やめよう。

考えるのは千秋楽以降にしなければ。

それでも、晴海と同じタイミングで東京へ行くという恵里佳ちゃんをうらやましく思う気持ちは止められなかった。

「……なに?」

気持ちが届いてしまったのか、女王の格好をした恵里佳ちゃんが私の視線に気付いた。

セクシーなドレスにゴージャスなティアラ。

そして堤くんが頑張ってデコった、ふわふわファーの黒い扇子。

迫力がすごい。

「あ、うん。恵里佳ちゃんって、卒業したら東京の大学に行くんだよね」

この間東京で受けた大学は全て合格したと話しているのを聞いた。

そのうちのどこかに進学するのだろう。

恵里佳ちゃん、晴海に頻繁に会えるんだ。

いいなぁ。

と、思っていたのだが。

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