ラブソングは舞台の上で




2月28日、金曜日。

いよいよ明日が舞台初日である。

今日は前日リハーサルだ。

実際に公演するステージで、本番と同じ衣装を身に着け、メイクを施し、髪型もセットして、前説からカーテンコールまで、全ての過程を本番通りに行う。

専門用語では、ゲネプロと言うらしい。

地元にある小劇場は、小さなライブハウスを綺麗に掃除したような感じだ。

天井、壁、床が黒いため、観客が座る椅子と舞台のセットが明るく見える。

客席と舞台が近いため、段差もせいぜい15センチ程度。

客席は全部で12席×5列の60席程度あり、列が後ろの席ほど高くなる段々設計だ。

客席の後ろ、舞台から見て右側に音響と照明の部屋がある。

舞台袖は上手側下手側それぞれ6畳くらいずつの広さ。

合わせたら舞台より広い。

ぼんやり劇場を見渡していると、後ろから誰かにドンと押された。

「あっ、すんません!」

男性の声がして振り向いた瞬間、私は小さく悲鳴を上げた。

金髪で色黒で強面の男が、私を見下ろしている。

いつかの公園を思い出し、私は無意識に2歩下がる。

彼は持っていた大きな荷物を置き、軽く頭を下げた。

「初めまして。大道具作ってます、大原健吾(おおはらけんご)っす」

「は、初めまして。ヒロインの牧村明日香です」

ああ、なるほど。大道具ね。

タカさんの会社の後輩だと聞いている。

よく見ると格好も大工っぽい。

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