ラブソングは舞台の上で

健吾くんは小さく「やべっ」と呟き、私と晴海にペコリとお辞儀をして、再び猫足テーブルを担いで行ってしまった。

「タカさんって本当にお父さんなんだ」

「俺も最初は驚いた。下に高校生の女の子もいるしね」

へぇ、娘さんまで。

「劇団でのみんなしか見たことないけど、それぞれ仕事があったり家族がいたりするんだよね」

当たり前のことだけれど、あまり想像したことがなかった。

ともちゃんの旦那さんだって、車は見るけど顔はまだ見たことがない。

時間が近づいてきたので、ドレスに着替えてスタンバイに入る。

舞台用の派手なメイクは、ともちゃんが施してくれた。

ガラじゃないピンクのドレスに赤茶色の巻き髪、それに何もかもが大袈裟なメイクで全然違う顔になってしまっている。

もう本当に、牧村明日香の要素がどこにもない。

「そろそろ始めるぞー」

高田さんの声で、各々のポジションにつく。

開始前に舞台から客席の方を見ると、仕事で到着が遅れていた卓弥さんが音響室にいた。

私に気付くと笑顔で投げキッス。

動画に撮って詩帆さんに見せてやりたい……。

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