ラブソングは舞台の上で

客席の真ん中に高田さんが座る。

次第に舞台が暗転し、蛍光シールでバミッてある場所へサンパチマイク(のセット)が置かれると、照明が着き、音楽が鳴りはじめた。

前説の始まりだ。

前説ではともちゃんと堤くんが、笑いを交えた漫才形式で注意事項などを伝達する。

『携帯はマナーモードではなくサイレントに。設定方法がわからない方は、電源をお切りください』

『おもしろかったらおおいに笑ってください。悲しくなったらもちろん泣いていただいてオッケーです。ただし、悪役にムカついたからといってものを投げたりしてはいけません』

『暗転すると本当に真っ暗になるが、手持ちの明かりで照らしたり、携帯電話を使用したりはしないでください』

このようなことを伝えるための漫才も、脚本の川原さんが作ったらしい。

このまま大きな漫才の大会に参加してもいいのではないかというくらいの完成度だ。

前説が終わると再び舞台が暗転し、蛍光シールを頼りに大道具などが静かに置かれる。

素早くセットする必要があるが音を立てるとダメなので、全ての大道具の足にはローラーやクッション剤のようなものが仕込まれている。

稽古に稽古を重ねて来たけれど、全てが本番と同じ状態で演じるのはこれが初めてだ。

台本も躍りも歌も、骨の髄に染み込むほど繰り返し練習してきたけれど、まったく新鮮に感じてしまう。

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