ラブソングは舞台の上で
ドレスは重い。
そして照明の熱で暑い。
しかし日頃の努力の甲斐あって、仕上がりは良い。
高田さんの指導も微調整だけだ。
これならきっと、明日からの公演も大丈夫だろう。
ただし、やはり暗転時にシールのわずかな光しか見えないのは怖い。
ゲネプロも後半の、場面転換のタイミング。
暗転した舞台から蛍光シールを頼りに舞台袖へ移動する際、私は何か予想外の力がかかったのを感じ、体のバランスを崩した。
慣れないドレスと機能していない視覚が仇になったのか、そのまま派手に転倒してしまった。
一瞬の出来事だったが、ドレスが何かに引っ掛かってしまったのだということは理解した。
一呼吸置いて、衝撃を受けた腕に鈍い痛みが広がる。
大きな音がしたので、周囲が気付き、照明が点けられた。
「すみません、私の不注意で……」
「大丈夫?」
「はい……つっ!」
立ち上がろうとすると足首に激痛が走り、再び倒れ込む。
転倒した拍子に捻ってしまったらしい。
「きゃあっ!」
直後に響いたのは悲鳴だった。
続いて周囲が不穏にどよめく。
悲鳴を上げた恵里佳ちゃんの視線を追うと、私のドレスは右膝の辺りから裾にかけて、無惨に引き裂かれていた。
その刹那、私の頭の中も暗転した。
ヒロインである私が捻挫。
衣装は派手に破れてしまっている。
明日……いや、もう十数時間後には本番なのに、だ。