ラブソングは舞台の上で

ドレスは重い。

そして照明の熱で暑い。

しかし日頃の努力の甲斐あって、仕上がりは良い。

高田さんの指導も微調整だけだ。

これならきっと、明日からの公演も大丈夫だろう。

ただし、やはり暗転時にシールのわずかな光しか見えないのは怖い。

ゲネプロも後半の、場面転換のタイミング。

暗転した舞台から蛍光シールを頼りに舞台袖へ移動する際、私は何か予想外の力がかかったのを感じ、体のバランスを崩した。

慣れないドレスと機能していない視覚が仇になったのか、そのまま派手に転倒してしまった。

一瞬の出来事だったが、ドレスが何かに引っ掛かってしまったのだということは理解した。

一呼吸置いて、衝撃を受けた腕に鈍い痛みが広がる。

大きな音がしたので、周囲が気付き、照明が点けられた。

「すみません、私の不注意で……」

「大丈夫?」

「はい……つっ!」

立ち上がろうとすると足首に激痛が走り、再び倒れ込む。

転倒した拍子に捻ってしまったらしい。

「きゃあっ!」

直後に響いたのは悲鳴だった。

続いて周囲が不穏にどよめく。

悲鳴を上げた恵里佳ちゃんの視線を追うと、私のドレスは右膝の辺りから裾にかけて、無惨に引き裂かれていた。

その刹那、私の頭の中も暗転した。

ヒロインである私が捻挫。

衣装は派手に破れてしまっている。

明日……いや、もう十数時間後には本番なのに、だ。

< 283 / 315 >

この作品をシェア

pagetop