ラブソングは舞台の上で
「コールドスプレー持ってこい!」
いつもとは違う高田さんの怒鳴り声に、みんなが我に返ったように慌ただしく動き出す。
「はい!」
「それから氷! 誰か買って来い!」
「はい! 俺買ってきます!」
周囲がバタバタする中で、私は静かに絶望するしかできない。
「破れた衣装は縫えばいい。大事なのは明日香の足だ」
「はい!」
晴海が私を抱きかかえ、椅子に座らせ、私の靴を脱がす。
そして無遠慮にドレスの中へと手を突っ込み、私のタイツを脱がせた。
恥ずかしがってたりする余裕などない。
晴海は私の足に触れ、じっくり診察する。
「腫れてる。ここだろ」
「いった……!」
右足の甲が、いつもの2倍の厚さに見えた。
ともちゃんが持ってきた救急箱の中からコールドスプレーを取り出し、広い範囲に吹き付ける。
私はただ情けなく涙を流し、
「ごめん、ごめんね……」
とうわごとのように呟く。
元サッカー部の晴海は、慣れた手つきで足首をテーピングした。
晴海の顔に焦りが見える。
そりゃそうだ。
明日からの本番、私はアンジェラを演じられないかもしれない。
「氷買ってきました!」
執事姿の堤くんが戻ってきて、テーピングの上から氷のうを当てる。
応急処置は、おそらく完璧だ。