ラブソングは舞台の上で



「明日香」

体を揺すられて、目が覚めた。

「大丈夫か?」

目の焦点が合うと、心配げに私を見下ろす晴海の顔が見えた。

気付けば私は涙を流しているし、鼓動が激しく、汗びっしょりだ。

「晴海……」

「怖い夢でも見たんだろ」

「夢……?」

「もう大丈夫。何も悪いことなんて起こってないよ」

優しい声で抱きしめてくれる晴海に縋りつく。

よかった、夢だった……。

いっそのこと捻挫も夢だったというのを期待したけれど、残念ながら私の足は変わらず大袈裟に固定されている。

「気にしすぎ。本番直前に衣装が破れるとか、怪我するとか、よくあることだから。みんなある程度は想定してたよ。右足を使わないバージョンの練習もしただろ? 大丈夫。大丈夫だよ」

大丈夫……なのだろうか、本当に。

さっきの夢は、一生のトラウマになりそうだ。

私は夢での晴海を忘れるため、しつこく愛の言葉とキスをねだった。

そして晴海が応えてくれると、命の危機から解放されたように安心した。

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