ラブソングは舞台の上で

開演30分前。

だんだん時間が迫ってきて、劇場内にお客さんが入る音がし始めた。

今日は工場長が見にくるんだっけ。

着替えよし。メイクよし。カツラよし。声の調子も悪くない。

よくないのは足だけだ。

肌色のタイツに包まれた右足の甲をギュッと握ると、ズンと痛みが走った。

大丈夫。大丈夫。

昨日とは痛み方が変わってる。

治ってきている証拠だ。

今日痛いのはもう仕方がない。

「あーもー緊張するねー!」

と言いながら、ともちゃんが笑顔で足をばたつかせる。

「うん……」

「明日香ちゃん暗いよ〜」

「ごめん。さすがに自信までは持てなくて。あんなに練習したのに、ケガしちゃうし」

「大丈夫だってー。明日香ちゃん、演技すっごく上手になったもん」

ともちゃんがたくさん笑ってくれるから、私もつられて笑顔になる。

そこに女王のキツい顔メイクを完成させた恵里佳ちゃんがやって来て、座ってしょげている私を見下ろして笑った。

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