ラブソングは舞台の上で
そんな私たちもだんだん会話が減っていき、本番5分前ともなると誰も喋らなくなってしまった。
「そろそろ始めるぞ。スタンバイして」
高田さんの号令でみんなが一斉に立ち上がる。
私は2テンポ遅れてしまった。
足に当てていた氷のうをボウルに戻し、少しだけ右足に力を込めてみる。
テーピングの効果で、動かせない。
だから痛みもしなかった。
「明日香」
王子様姿の晴海が私のもとにやって来た。
白い手袋を外し、ポケットに入れ、温かい素手で私の両頬に両手を当てた。
じわりと温もりが染み込んでくる。
「晴海?」
「まだ不安?」
「……うん」
頷くと、晴海はにっこりと微笑んで、みんなが見ているというのに、堂々と唇にキスをした。
周囲から悲鳴に近い歓声が上がる。
「明日香が世界で一番美しい。ほんとだよ」