ラブソングは舞台の上で
「いや、俺も明日香と帰る」
そんなのダメだ。
晴海はもうすぐ大学を卒業する。
この町からいなくなって、劇団エボリューションからも卒業する。
今のうちにたくさん思い出を作ってほしい。
「みんなと一緒にいられるの、あと少しでしょ」
「……まあ、そうか。でも一人で平気か?」
「平気だよ。バスも出てるし。子供じゃないんだから」
衣装の手入れをして、汗を拭き、着替えて、舞台用のメイクを落とす。
さすがにこの顔では外には出られない。
よく見ると男性陣も各々自分のクレンジングを持っていて、晴海が使っているのは、私がお邪魔したときに何度か使わせてもらったものだった。
あれは連れ込んだ女のためのものではなく、自分で使うためのものだったらしい。
一日目の活動はこれで終了だ。
「えっ? 明日香ちゃん来ないの?」
と騒いでくれるみんなに、明日は絶対に参加するからと謝って帰路についた。
今日は成功して本当によかった。
足がダメでも何とかなるものだ。
昨日からの二日間で、私はまた少し強くなれたと思う。
明日も上手くいきますように。
できれば来週の舞台までには足が治りますように。
晴海が、良い思い出を持って劇団を卒業できますように。