ラブソングは舞台の上で




日曜の公演も無事に終え、翌週月曜日。

足を引きずりながら出社し、制服に着替えて事務所へ行くと、私のデスクの上に小振りな菓子折りが置かれていた。

リボンのところには小さなメッセージカードが挟まっている。

『牧村様 ミュージカル、楽しく拝見させていただきました。感動いたしました。特にあなたの歌は素晴らしかったです。 鈴木陽子』

舞台を見に来てくれた人からの差し入れ?

それにしても、鈴木陽子さんって……誰?

「あ、牧村さん。おはよう」

「工場長、おはようございます。あっ!」

工場長の名前は鈴木さんとおっしゃる。

ってことは、陽子さんとは。

「これ、妻からなんだ。君のファンになったと言っていたよ」

工場長は、二列目の客席にいた。

隣に座っていた女性の顔を何となく思い出す。

「ありがとうございます。でもちょっと恥ずかしいです」

「いやー、舞台。素晴らしかったよ。牧村さん、本当に歌が上手いんだね!」

工場長が大きな声でベタ褒めするから、だんだん周りに人が集まってくる。

「え、そんなにスゴいの?」

「俺も昨日彼女と見に行ったけど、彼女牧村さんの歌で号泣してたよ」

「マジで?」

事務所の中は朝礼の時間になるまで、私を中心にミュージカルの話で持ちきりだ。

会社で私が話題の中心になる日が来るなんて思いもしなかった。

そしてこの週、さらに10枚のチケットが売れた。

千秋楽に関しては、完売だ。



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