ラブソングは舞台の上で

私と男性陣のメイクは、ともちゃんがやってくれる。

みんな一度は自分でやろうと試みたのだが、ともちゃんがあまりにも細かくダメ出しをするため、心が折れたのだ。

唯一恵里佳ちゃんは自分で時間をかけてやっている。

リキッドファンデーションを私の顔に塗りながら、ともちゃんが遠慮がちに切り出す。

「ねえ、明日香ちゃん。こんなこと聞いていいのかわかんないけどさ」

「なに?」

メイクがズレないよう、できるだけ口を動かさないように応えた。

ともちゃんから次の言葉が出たのは、ベースメイクが完了した時だった。

「晴海ちゃんが卒業したら、どうするの?」

「うーん……」

眉を濃く長く描き、内眉から小鼻まではノーズシャドーを乗せてゆく。

今日の舞台を終えるまで、あえて考えないようにしていたのに。

「遠距離するの? それとも、別れるの?」

「どうだろうね。まだそういう話はしてないよ」

まぶたには骨に合わせて影を入れ、ダブルラインに。

アイシャドーはド派手な濃いピンク。

両脇は極端に濃く、中心は極端に薄く塗って立体感を出し、アイラインは目から1.5センチも飛び出させる。

「明日香ちゃんはどう考えてるの?」

周囲はガヤガヤしている。

この会話を周りのみんなが聞いている感じはないし、鏡越しに確認すると晴海は楽屋に戻ってきていない。

それを確認して、答えた。

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