ラブソングは舞台の上で
「晴海に決めてもらうつもり。新生活を迎えるのは晴海だし、あっちで可愛い子と出会ったりもするでしょ。期限のない遠距離なんて現実的じゃないし、覚悟決めなきゃって思ってる」
覚悟とはつまり、晴海との関係を断つ覚悟だ。
恋愛の過程としては、今がいちばん盛り上がっている時期だと思う。
別れるなら絆が浅いうちの方が傷も浅い。
大体のメイクが仕上がった。
最後の口紅だけは、自分で塗る。
ともちゃんが描いてくれたリップラインの内側を、この舞台のために自分で準備した赤い口紅をリップブラシに取って埋めるだけなのだが、いつも少し緊張する。
先週キスで晴海の唇に少し移ったのを思い出し、密かに笑った。
「明日香ちゃんは、それでいいの?」
「いいよ。わかってたことだもん」
私の反応に、ともちゃんは納得いかないような顔をした。
「本当は嫌でしょ?」
「嫌だけど、嫌って言ったからって困らせるだけだから。晴海が卒業するのも、東京で就職するのも、出会う前から決まってたことだもん」
だから始めはお互いに付き合うことなど考えていなかったのだ。
「辛いね」
ともちゃんは残念そうに眉を寄せる。
私は気持ちをごまかすように笑って、メイクを完了した。