ラブソングは舞台の上で
田代晴海(たしろはるみ)。
彼はそう名乗っていた。
他の男の名前は誰ひとり覚えていないけれど、男のくせに女みたいな可愛らしい名前だったから、こいつのだけは覚えている。
しかし可愛いのは名前だけで、見た目は男くさいタイプだ。
肌は健康的な小麦色。
痛みのない黒髪はナチュラルなツーブロックで、トップは無造作なマッシュスタイル。
キリッと濃くて真っ直ぐな眉の下に、存在感のある目が光る。
体つきが筋肉質だし、服装もクールな感じでワイルドそうに見えたし、見た目だけで言えば結構タイプだった。
だから気を許したのだけど……すっかり騙された。
彼はせっかくの凛々しい顔をくしゃっと潰したようにヘラヘラ笑って……
「明日香ちゃーん。飲んでないじゃーん」
「明日香ちゃーん。おかわりあるよー」
この合コンという場に慣れきっているように、じゃんじゃん酒を押し付けてきたのだ。
合コンのノリについていけずにあたふたしていた私は、勢いに押されてそれらを飲んでしまった。
カラオケだってそうだ。
上手すぎるからという理由でみんなに敬遠される私は、高校を卒業して以来、ずっと人前で歌わないようにしてきたのに。
こいつは私の気も知らないで無理矢理マイクを握らせた。
……そして現在に至る。