ラブソングは舞台の上で
「明日香ちゃーん? 生きてるー? 返事してー」
ふん。
誰が返事なんてするもんか。
こうなったのは、全部あんたのせいだ。
ただでさえトイレは寒いのに、血の気が引いて身体中がキンキンに冷えていく。
もう帰りたい……。
ショートカットは首回りが冷えやすい。
この季節だけでも髪を伸ばしておけば良かったと、秋にカットしたことを今更後悔する。
無視を続けた甲斐あって、やがて私を呼ぶ声はしなくなった。
よかった。解放された。
これ以上あいつと関わると、あとどれだけ飲まされるかわからない。
何とか人間らしさを取り戻した私は、室内の洗面台で口をゆすぎ、備え付けのあぶらとり紙や綿棒で軽くメイクを直した。
そして最後に、水で髪のウェーブを調節。
顔は青白いが、私の茶髪だけは黄色っぽいライトに照らされてキラキラ輝いている。
あの騒がしい部屋には戻りたくないな。
そう思いながらため息をつき、トイレの扉を開けた。
「あ、やっと出てきた」
まだいたのか、田代晴海。
条件反射で扉を閉めようとしたが、彼は慌ててそれを阻む。
「待って、待って! 閉めないで!」
「……なに」
無愛想にこの一言を返すのがやっとだった。
まだ気持ち悪いし、クラクラする。
目眩でこの憎い男の顔がキラキラしている。
少女マンガの王子様演出みたいに見えて胸くそ悪い。
息をするだけで精一杯の私に、彼は至極真剣な顔で言った。
「俺のヒロインになって!」