ラブソングは舞台の上で



晴海の部屋を出た時間の都合で、いつもよりちょっと早めに会社に到着した。

たった20分早く着いただけなのに、景色が違って見えて新鮮だ。

更衣室に入ると、詩帆さんが先に着替えていた。

「おはようございます。今日は早いですね」

「おはよう。そう言う明日香だって……ん?」

詩帆さんが首をかしげる。

「どうしたんですか?」

「服、昨日と同じじゃないの」

さすが詩帆さん。鋭い。

「き、気のせいです」

下手な嘘など通用しないのはわかっている。

詩帆さんは途端に悪い顔になった。

下世話は詮索は、もはや避けることができない。

「確か昨日は、約束があるからってバタバタ仕事切り上げて帰ってたよね」

「そうでしたっけ」

他人事なのに、よく覚えていらっしゃる。

「誰と一緒にいたのかなぁ? 気になるなぁ」

「誰とって、みんなとですよ」

劇団のみんなといたのだから、嘘ではない。

「何も恥ずかしがることないのに。あんたがそういう相手と巡り会えたのなら、私は嬉しいよ」

「いや、本当にみんなといて……」

「じゃ、先に事務所入ってるね」

詩帆さんは嬉しそうな顔をして更衣室を出て行った。

いや、本当にみんなといたんだけど。

はじめのうちは。



< 53 / 315 >

この作品をシェア

pagetop