ラブソングは舞台の上で

言葉の意味を理解しようと、数秒間黙って思考を巡らせる。

……が、ダメだった。

「はぁ?」

「だから、ヒロイン」

何言ってんの?

頭おかしいんじゃないの?

もしかして、本当に少女漫画の世界からやってきたのだろうか。

だったらキラキラして見えるのにも納得がいく。

だけど、この男が私の王子様だなんて、絶対に嫌。

顔や筋肉質な体はかなり私のタイプだけれど、性格がこれじゃあお友達にもなれない。

「トレンディードラマの見すぎなんじゃないの?」

しゃべると、また少し苦しくなる。

彼はますます真面目な顔をして告げた。

「そうじゃなくて、本当にヒロイン探してるんだって。俺が出演する、ミュージカルの」

「ミュージカル? 出演?」

この人、マジで何言ってんの?

あまりの唐突さに、頭がグルグルしてきた。

わけわかんない。

「酔ってんの?」

「酔ってるけど、マジの話」

「じゃあ、寝ぼけてんだ」

「ちゃんと起きてるよ」

息が上がり、景色が余計にチカチカして、彼の顔が見えなくなっていく。

部屋から漏れるカラオケの音も、耳元で血の気が引く音がざわざわ響いて聞こえなくなっていく。

そして……

「明日香ちゃん!」

私を呼ぶ声が聞こえたのを最後に、私の意識は途切れた。



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