ラブソングは舞台の上で
個人練習のために晴海とやって来たのは、晴海が私に「ヒロインになって」と言ったあのカラオケ屋。
ここなら大声でセリフを練習できる。
しかし今日案内されたのは、先日のような大部屋ではなく、カップル向けの狭い部屋だ。
この部屋も例に漏れず、タバコ臭い。
私も晴海も吸わないから、何となく損した気分になる。
「なんか……下手すぎてほんとにごめん」
「気にすんなって。こうなることは想定してたから」
だけど私の下手さは思った以上だったと顔に書いてある。
さすがの晴海も私を選んだことを後悔したのではないだろうか。
「大丈夫かなぁ、私」
ため息ばかり出す私に、晴海は頼もしいほどの笑顔を見せた。
「大丈夫! 高田さんが言ってたっしょ。セリフにも音程があるって」
「うん。意味はわかるけど、その音程の付け方がわからないんだよね。楽譜があるわけじゃないしさあ」
いっそのこと全て歌になっていた方が気が楽だ。
「だから、俺が明日香のセリフ全部に音程を付けるよ」
「え、全部に?」
作曲してくれるってこと?
晴海、そんなことできるの?
私は晴海がギターやピアノの前で楽譜を書いている様子を想像したが、彼の考えは少し違っていた。