ラブソングは舞台の上で

私は観念して晴海と劇団のことを詩帆さんに話した。

彼女は好物の色恋話ではないことに「なんだー」とガッカリしながらも、劇団という未知の世界の話にしっかり耳を傾けていた。

「なるほどね。あの子、だから歌の上手い明日香を持ち帰ったんだ。建前上」

「建前じゃなくて、事実です」

「それにしても明日香が人前で歌いながら踊るなんて想像つかないなー。カラオケで歌ってるのだって、初めて見たばかりだし」

「会社のみんなには言わないでくださいね。突っ込まれると答えにくいので」

「はいはい。その代わり、ラブが芽生えたら報告してね」

「芽生えないと思います。そんな余裕ないんで」

筋力、体力、柔軟性、演技力。

課題が多すぎて、ラブどころではない。

それに、筋肉痛でヨボヨボな私を好きになってくれる男がいるとも思えない。

「あ、それと、イイ男いたら紹介して」

「あと何人男作ったら満足するんですか」

「毎日別の男とデートしてたら一年経ってた、とか言ってみたいの」

「壮大な夢ですね」

「夢は大きくなくっちゃね」

こんな人だけれど、詩帆さんはいろんな意味ですごい。

良くも悪くも正直なところとか、行動力とか、勢いとか、美しさとか。

恋愛に関しては不可解な部分が多いけれど、精力的に出会いを獲得してゆく様は、大抵の人には真似できないと思う。

私は後輩として、いつか彼女を幸せにしてくれる誰かと落ち着くことを、切に願っている。



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