ラブソングは舞台の上で
私の仕事は工場事務。
激しく動き回ったりしないから、筋肉痛が辛くても仕事に支障はないと思っていた。
しかし。
電話を取る、ファイルから書類を探し出す、宅配便を受け取る、コピー機のトナーを換える、閉店ギリギリの銀行へ駆け込む……。
突っ立っているだけでも痛いのだから、いつもの仕事だけでも痛くないわけがない。
地味な事務仕事でも、案外筋肉を使っているらしい。
体のどこを動かしても痛むのだから、石原さんの筋トレやストレッチが全身にくまなく効いているということだ。
素晴らしいことではないか。
ストレッチと筋トレだけでこんな状態なのに、ダンスの稽古が始まったらどうなるのだろう。
ベッドから降りられなくなったりして。
ミュージカル、恐るべし。
午後の業務を開始した頃には、痛みには慣れてしまっていた。
しかし相変わらず体は思うように動いてくれなくて、同じ動作を行うにも、普段の5倍くらいの気力を要する。
すぐそこの銀行へ行って工場へ帰ってくるだけで、もう重労働。
2階の事務所への階段が、最終試練だとばかりに私の前に立ちはだかった。
「はああぁぁぁ」
一度大きくため息をついて、覚悟を決める。
ゆっくり足を上げ、体重をかける。
朝よりも太股が痛むのはなぜだろう。
まさか、これからますます全身が痛むのではあるまいな。
もう、勘弁して……
「牧村さん」
下の方から声がして、条件反射で振り返る。
うっ……首まで痛い。
私を呼んだのは、外から帰ってきた翔平だった。
会社では名前でなく、苗字で呼び合うようにしている。
「森さん、お疲れさまです」