ラブソングは舞台の上で
「なんでよ」
その男くさい顔で子供みたいな膨れっ面をされても、全然可愛くない。
「あの劇団にはね、女に飢えた野獣がうじゃうじゃいるんだよ。明日香を一人で行かせるのは危険過ぎる。俺の目がないと食われるぞ」
大袈裟な。
ともちゃんも恵里佳ちゃんも、一人で来ているのだ。
それで説得しているつもりなのだろうか。
「うじゃうじゃって、いつも稽古場には10人も集まらないじゃん」
最近では演者の6人と高田さん、石原さんしか来ないことも多い。
「タカさんも石原さんも堤も、みんな独り身なんだよ。彼女もいないんだよ」
なんだかモテない集団みたい。
みんな見た目は悪くないのに。
「ていうか、彼女いないのはあんたもじゃん」
言うこと聞かなかったらすぐ押し倒して「犯す」とか言って脅すくせに。
一番危ないのはあんたなんじゃないの?
「俺には明日香がいるし」
「はいはい。千秋楽まではね」
勝手なやつ。
まあいいか。
バタバタするのは私ではないし、寒い道は誰かと一緒に歩く方が暖かい気もする。
下らない話をしながら稽古場である高田さんの店へ。
到着する直前、晴海が不意に立ち止まった。
「あのさ、明日香」
「どうしたの?」
私もつられて立ち止まる。
晴海はふっと息をつき、両肩を上げてマフラーに顔を埋めた。
なによ、そのポーズ。
ちょっとかわいい。
「24日、空いてる?」