ラブソングは舞台の上で
「赤くなってやんの。何想像してんだよ。明日香のエッチ」
「ば、バカじゃないの? あんたが変な風に言うからじゃん」
なんだ。
またからかわれてただけか。
本気で照れた私がバカみたい。
「で? 行くの行かないの?」
チラッと翔平の顔が頭に浮かぶ。
いやいやいや。
別れてるんだから、彼に遠慮する必要なんてないはずだ。
「行く」
私が答えると晴海は満足そうに笑って、チケットをジャケットのポケットに戻した。
ああ、何を着て行こう。
私はしばらく、そればかり考えていた。
稽古場に入ると、その瞬間から空気がいつもと全然違った。
なんだかとても、軽い感じがした。
軽さの正体はすぐにわかった。
部屋に流れているBGMだ。
いつもはストレッチや筋トレで使うヒップホップがかかっていて、重低音がズンズン鳴っている。
しかし今日は、軽快なフォークギターが、生音で響いている。
「あ! 卓弥さんじゃん!」
晴海が親しげに声を掛けると、ギターの音が止んだ。
集まっているみんなの中心に、見覚えのない男が一人いる。
この人が、作曲の卓弥さんらしい。