ラブソングは舞台の上で

恵里佳ちゃんはギュッと唇を噛み締めた。

「明日香さんと、付き合ってるの?」

私の名前が出て、思わずビクッとした。

「いや、付き合ってはないけど」

いないけど、何なのよ。

含みを持たせるような言い方をするから、また恵里佳ちゃんの可愛い顔が険しくなった。

「だったら、どうして? 絶対あたしの方が先に誘ったのにっ」

すごいな、この子。

晴海への気持ちと応えてもらえない憤りを、何のためらいもなく、全身で表現している。

きっと自分に自信があるんだ。

うらやましい。

晴海が彼女の気持ちに応えるつもりがないことを、恵里佳ちゃん以外のみんなはちゃんとわかっているようだ。

だから何も言わず、やれやれといった感じで見守っている。

「恵里佳……」

「もういい、ごめん。練習続けるね」

恵里佳ちゃんは晴海の声を遮って、台本を読みながらストレッチを再開した。

ヒロインといい、イブといい、私、恵里佳ちゃんには相当恨まれているかもしれない……。

ますます気まずくなってしまいそう。

だけど、晴海が恵里佳ちゃんを好きになって、二人が上手くいけばいいとは、ちっとも思えない。

もしかしたら私と恵里佳ちゃんが仲良くなれる日なんて、来ないのかもしれない。



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