ラブソングは舞台の上で
この日の稽古が終わると、恵里佳ちゃんはジャージ姿にコートだけ羽織って、そそくさと稽古場を出て行った。
いつもは制服か、かわいい私服に着替えてから、堤くんに連れられて帰るのに。
堤くんも慌ててダウンジャケットを羽織り、追っていく。
「明日香、俺らも着替えて行こうぜ」
晴海はそんなことを気にする素振りすらない。
「あんた、気にならないの? 恵里佳ちゃんのこと」
一応、遠慮がちに尋ねてみる。
晴海は渋い顔をした。
「いつものことだし、俺が気にしたところで何にもならないからな」
「気持ちに応えられないから?」
「まあ、そういうこと」
晴海がそう言ったから、私は少し安心した。
出会った日から今までの、短いけれど濃い付き合いの中、私は晴海にある種の独占欲を抱いている。
それは晴海が言う「千秋楽までは俺の女」というのと、同じ気持ちだと思う。
だから千秋楽までは、大学とかバイト先とかであっても、女なんて作らないでほしい。
私だけに、ちょっかいを出していればいい。
なにこの気持ち。
変なの。