ラブソングは舞台の上で



待ち合わせの時間は7時過ぎ。

晴海からは『7時にコンビニのバイトを上がってから行く』と事前に連絡をもらっている。

いつも待ち合わせている1階の看板の前は、若いカップルで溢れていた。

少し早かったかなと思いながら到着したが、晴海はすでにそこにいた。

私に気付いた彼が、ニッと頬と手を上げる。

待った?

ううん、今来たとこ。

周囲のカップルがそんな会話をしている中、私ときたら。

「早っ! バイトは?」

何のためらいもなく、低い声でそう尋ねてしまった。

今日はどこのコンビニもチキンやケーキの店頭販売をしているし、忙しいはず。

遅れて来るとすら思っていたのに。

「独り身のメンツで頑張るから、デートのやつはさっさと帰れって、店長に追い出されたんだよ」

たしか前にもこんなことがあったような。

いくらバイトとはいえ、そんなにユルくていいのだろうか。

「ふーん」

「おかげでおめかしできました」

「おめかしって……いつもと大して変わらないじゃん」

なんて、嘘だ。

稽古のときとは違うことくらい、本当はわかっている。

ネイビーのダッフルコート、ベージュのパンツ、ココアブラウンのブーツ。

髪もちゃんとセットしてある。

稽古の日は着替えやすさ重視でラフだけれど、今日はキレイめだ。

晴海のこんな格好を見るのは、合コンの日以来だろうか。

恥ずかしいから絶対に言わないけど、カッコイイ。

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