ラブソングは舞台の上で
列車に乗って、街まで移動した。
これから観るミュージカルの会場は、この街の大きな公会堂。
開演まで少し時間があったから、小腹を埋めに近くのファストフード店へ。
高校生や中学生のカップルで大混雑だった。
よく見ると、恵里佳ちゃんや堤くんと同じ制服の子もちらほらいる。
「あの子たち、今頃何してるのかな……」
恵里佳ちゃん、ほんとは晴海と過ごしたかったんだもんね。
「ん? 何か言った?」
「ううん。独り言」
「あ、そろそろ行かないと」
時計を見ると、7時40分。
チケットには開演は8時、入場は7時半からだと書かれている。
「うん。急ごうか」
余計なことを考えるのはよそう。
今日ここにいる目的は、晴海とのデートを楽しむことじゃない。
プロのステージを見て勉強することなのだ。
恵里佳ちゃんが考えてるようなことは……たぶん、ない。
公会堂まで行くと、入り口はすし詰め状態だった。
舞台のポスターには「チケット完売御礼」という紙が貼られている。
予想以上の混み方だ。
先の方に列もあるのだが、そこに並ぶまでは人混みに揉まれなければならない。
「はぐれんなよ」
「あんたこそ」
と言ったそばから人に押され、数歩よろけるとそこに人が入ってきて、あっという間に晴海を見失ってしまう。
きょろきょろしていると、
「あー、もう。言わんこっちゃない」
背後から声がして、ぐいっと腕を引っ張られた。
行き急いでいる人とぶつかりながら、晴海の隣に戻る。
「押されちゃうのは不可抗力だもん」
膨れっ面を見せると、晴海はフッと笑って、ポケットに突っ込んでいた私の右手を取り出した。
そしてふた回り大きくて温かい自分の手で、私の右手を包み込む。