ラブソングは舞台の上で
「こうしとこう」
キュッと軽く握られると、連動するように胸もキュッとなった。
「……うん」
はぐれてしまうから、仕方なく繋いでるだけだ。
特別な意味などない。
頭ではわかっている。
けれど、“クリスマスイブにカッコいい男の子とのデートで手を繋ぐ”というシチュエーションにときめかない女なんているのだろうか。
私たちは手を繋いではいるが、体には少し距離がある。
その隙間を人が通っていって、繋いだ手がすぐに離れてしまった。
与えられていた熱がなくなって、右手が一気に寂しくなる。
舞い上がっていた気持ちが、急降下するのを感じた。
すると晴海が、私の腰に腕を伸ばしてきた。
さりげなく抱き寄せ、ぴったりくっつく。
少し前にいるカップルと同じ体勢だ。
触れている右半身のいろんなところから晴海の温もりが染み込んでくる。
胸がキュッどころではなくなってきて、私は何も言えなくなった。
口を開くと、変なことを口走ってしまいそう。
晴海も何も言ってこなかった。
トク、トク、トク、トク……
強くなった鼓動に合わせて体が震えているような気がする。
溢れてくる感情を我慢すると息が苦しい。
私、今どんな顔をしているんだろう。
照れを隠そうと力みすぎて、きっと変な顔をしている。
列まであと少し……。
「明日香……」
耳元で、晴海の吐息混じりの声がした。
「な、なに?」
そんな色っぽい声出して、何を言うつもりなの?
「ぶぇーくしっ!」
手で押さえたとはいえ、耳元で盛大にかまされたそれは、私の左耳の聴覚を数秒間奪うには十分な威力だった。
私は晴海の手を放して右耳を押さえ、ギロリと晴海を睨み付けた。
「ごめん。くしゃみ出そうって言いたかったんだけど、間に合わなかった」
ズズズ、と鼻をすすって笑う晴海。
「もう! ほんっと信じらんない!」
さっきまでのドキドキは一体何だったの?
今のくしゃみで全部吹っ飛んだ。
何かスゴいことを言われるような気がして、めちゃくちゃ緊張した私がバカみたいだ。
「ごめんごめん」