ラブソングは舞台の上で
そろそろ列に並べそうだ。
並べば無理に押されてはぐれることもない。
手を繋ぐ必要も、肩を抱かれる必要もなくなる。
「皆様が入られましてから開演いたしますので、どうぞ慌てず列にお並びくださーい」
係の人も必死だ。
それからすぐに列に並ぶことができた。
私はあえて手をポケットから出して、泳がせてみた。
晴海の手も泳いでいたが、私たちがホールに入るまで、手と手は触れ合うことさえなかった。
さっきまで触れていた右半身が、妙に寒く感じられた。
プロのミュージカルは、鳥肌ものだった。
前説からカーテンコールまで、喋り、演技、歌、ダンスなどなど、一貫してエンターテイメントとしてのクオリティが一級品。
これを見るまでは、晴海が教えてくれるセリフの音程を大袈裟で不自然だと思っていたけれど、プロの人たちはもっとずっと不自然な言い回しをしていた。
これくらいメリハリをつけないと、観客にはキャラクターの感情が伝わないということが、よくわかった。
歌の場面では、歌って踊りながら、表情までしっかり作られていた。
軽快な歌のときは、おもいっきり楽しそうに。
悲しい歌のときは、この世の終わりを迎えているような表情で。
舞台に必要なのは表現力だ。
「表現者」という言葉がある。
私は人より多少歌う能力に長けているかもしれないが、表現者としてはまだまだ三流なのだと思い知らされた。
せっかく見るのだからとことん勉強してやろうと思っていたけれど、結局私はこのステージに魅了されて、楽しむ方ばかりに集中してしまった。