俺様社長の言いなりです
蕎麦屋に入ると


「ざるそば二つ」


社長はメニューもろくに見ず、手慣れた様子で私の分まで注文をした。


__ざるそばを頼むなんて、意外と庶民的なのね。


と感心したのもつかの間、


「なんで水とおしぼりがないんだ?予約して時間も分かってるんだから普通用意してあるだろ。おいっ、早く用意しろ」


社長が大きな声で準備不足を店員さんに怒鳴った。


店員さんはというと社長に怒鳴られ、青い顔をしてシュンと俯いてしまっている。


__っていうか何?社長ってそういうキャラだったの?ジェントルマンでしょ?


いまだ状況に頭追いつかないまま唖然としていると次の瞬間、社長は店員にコップの水をぶっかけた。


「こんな店は懲り懲りだ」


そんな社長にわたしの堪忍袋の緒が切れるのは早かった。


反射的に大きな音を立てて椅子から立ち上がると、


「最低ですね。あなたにはがっかりしました。失礼します」


そう言って立ち上がった。


そんなわたしを見ると社長は怪訝そうに顔をしかめた。


社長へ芽生えた不満なんて、一気に吹き飛んでしまうくらいの眼力だ。


「……そのっ、さっきのは……独り言っていうか……なんか……その……」


あまりの威圧感におずおずと椅子に座りなおすと、


「誰にそんな態度とったかわかってる?これでも一応社長なんだけど」


気がつくと、鬼のような形相の社長が私の顔のすぐそばにまで迫ってきていた。
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