☲ミラーが笑った◎
 パンにジャムをぬり、むしゃむしゃ食べているところに母親が聞いてきた。

「きょうはテストがあるんでしょ?」

「うん」

「なんのテストなの?」

「算数」

「ちゃんと勉強した?」

「うん、した」

「もうすぐ中学生なんだから、がんばりなさいよ」

「わかってるよ、うるさいなあ、まったく。先生とおんなじことを言うんだから」

 ホットミルクを飲み終えたところで、また母親が言った。

「ひろみ、早くしなさい。また遅刻するわよ」

「はーい、行ってきまーす」

 ちょっと大き過ぎるスクールバッグを肩にかけて、玄関を飛び出したひろみの後から、また母親の声が追いかけてきた。

「車に気を付けなさいよ」

「わかってるよ。まったく・・・」

 ひろみは家を出たあと、いつも通る細い通学路には入らずに、そこを横切って広い十字路の方に歩いて行った。

ひろみが寄り道をするのには、ちょっと訳があった。

最近、団地横の車道沿いに、新しいコンビニエンス・ストアがオープンしたからだ。

ひろみが十字路の向こうにあるコンビニに行こうとして、横断歩道の手前で一台の自動車が通過するのを待っていたとき、ふと目に付いたものがあった。

それは、真新しい大きなカーブミラーだった。


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