☲ミラーが笑った◎
「いや、救急車を呼べ!」

 スポーツカーの中では、運転していた男が頭から血を流して、ハンドルの上でぐったりとしている。

十字路の真中に、ミラーボーの片足がくの字に曲がって落ちていた。

 ピーポーピーポーピーポー、

救急車の音と周りの人の声が、ひろみの頭の中を駆けめぐった。

その現場近くの家の主婦が、あわてて電話機に駆け寄り、ひろみの家に電話した。

「もしもし、あっ、奥さん?ひろみくんが大変。十字路で事故に遭ったの」

「えっ、ひろみが?は、はい、すぐ行きます」

連絡を受けたひろみの母親が、息せき切って駆けつけて来た。

「ひろみ、ひろみ、どうしたの。だいじょうぶ?」

「うん、ぼくは、だいじょうぶ・・」

「あー、よかった。ひろみ・・」

 母親はその時初めて事故を起こした車に目をやった。

前の部分がぐにゃっとつぶれ、その上にカーブミラーが覆い被さっている現場を目の当たりにして、

「あっ、あっ、あー」

と言ったとたんに、ひろみの上に崩れ落ちた。

「あー、ママ、ママ、だいじょうぶ?」

その日の夜、ひろみは母親から、

「なんであんなところに居たの?ちゃんと通学路を通っていれば、あんな目に遭わなかったんでしょ?」
と、こっぴどく怒られた。

(あーあ、言ったって、分かってもらえないよな。こんな時、優だったらなんて言うのかな?)



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