☲ミラーが笑った◎
「ひろみ、あのコンビニで消しゴム買えた?」

クラスメイトの達也がひろみに聞いた。

「ううん、今朝時間が無くて買いに行けなかった」

「じゃあ、ぼくのを貸してやる」

達也は自分の消しゴムを半分に切って、ひろみに渡した。

「ありがと」

ピーンポーンパーンポーン、授業開始のチャイムが鳴った。

 放課後、ひろみは校門を出ると、早足で通学路から車道に出て坂道を駆け下りていった。
今朝のことが気になってしかたがなかったからだ。

十字路の横断歩道の手前で、大人が三人同じ方向を見て立っている。その目の前を車が一台通り過ぎると、三人は横断歩道をゆっくりと渡り始めた。

ひろみはカーブミラーの下まで来て立ち止まった。ミラーを見上げているひろみの姿を見て、大人たちもそのカーブミラーをちらっと見たが、ただのミラーだと分かると、何だという顔をして通り過ぎて行った。

 ひろみはミラーを見つめながら、また今朝と同じように、ミラーボーの声が聞こえるだろうかと、ちょっと不安になった。

今朝のことは夢だったのかもしれない。ちょっと声をかけてみようか。今なら誰もいない。

「ミラーボー、いる?返事して」

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