ふわ恋。〜一番の恋を貴方と〜
絶体絶命だった。
「これから遊ばない?」
男は一歩私に近づくと、手首を掴む。
もう無理…
怖い怖い怖い、誰か…
並木さん…助けてっ‼︎
目をぎゅっと瞑り、頭の中で何度も並木さんを呼んでいると、
「あのさ、悪いけどその子離してくれない?」
聞き覚えのある声にハッとして、その声の主を確認するために目を開けた。
そこには、カフェスタッフの槙村さんと、その後ろに隠れるように平井さんがいた。
「槙村」
「槙村さん…」
男と声が被る。
どうやら二人は知り合いのようだ。
「チッ。槙村の女かよ」
男は盛大に舌打ちをすると、掴んだ手を離した。
すぐに距離を取り、手首を摩る。
「俺の女じゃねぇけど。世話になってる人の頼みだからな」
槙村さんは面倒臭そうに髪を掻いた後、ギロリと男を睨み付けた。
自分が睨まれてるわけじゃないのに、恐怖で身体が強張ってしまう。
「お前、何もしてねぇよな?」
「…し、してねぇよ」
男は「行くぞ」と他の仲間を連れ立って、飲み屋が集まる一角へ消えて行った。