ふわ恋。〜一番の恋を貴方と〜
「先輩、お待たせしてすみません」
テニスコートのベンチにその姿はあった。
ジャージ姿の先輩は、もう高校生の頃の先輩とは違う。
大学生になって一段と大人っぽく、そして男っぽくなった。
「ああ、俺も今来たとこ」
先輩は、「座れば?」と隣りの空いたスペースをぽんぽんっと叩く。
先輩とほんの少し離れて腰を下ろす。
この距離が、今の私達には相応しい距離。
「これどうぞ」
「ん?ミルクティー?懐かしいな」
「…覚えてるんですか?」
「当たり前だろ?俺が恵里……望月さんにボールを当てちゃった日にお詫びで買ったやつだ」
あの日のこと、先輩も覚えてくれてたんだ。
すっかり忘れてるもんだと思ってたけど。
それよりも、私の名前を呼び直した先輩に、少しだけ寂しいと思ってしまう。
まだ好きかって聞かれたら、はっきりとNOって言える。
今は並木さんが好きで、その気持ちに嘘はないから。