ふわ恋。〜一番の恋を貴方と〜
「お前、何でさっき泣いてたんだよ?」
「それはっ…」
言いたくない。
それを言ったら、私の気持ちがバレちゃうから。
口をきゅっと結び、並木さんから視線を逸らす。
「言えって」
今の並木さんは様子が変だ。
声色が優しくて、口調も穏やかで、調子が狂う。
言いたくなかったはずなのに。
きつく結んだはずの口元が、ゆっくりと解けていく。
「ナナって…並木さんの彼女さんですか?」
「は?」
「電話、楽しそうに話してましたよね。ナナなんて名前、女性しか考えられないし…彼女なのかなって」
声が徐々に小さくなる。
答えを聞くのが怖い。
ややの沈黙の後、並木さんは、はぁ、と溜め息を吐くと、ポケットから煙草を取り出し火をつけた。
「七草洋平(ナナグサ ヨウヘイ)」
「…へ?」
「電話の相手。ここのスタッフだ」
「スタッフ…男…?」
嘘…でしょ?
私、てっきり女性だと思って…
「ふ〜ん。“彼女がいるって知ってる”ってのは、つまりお前の勘違いか」