ふわ恋。〜一番の恋を貴方と〜


走った後だからなのか、目の前の光景に動揺しているからなのか。
どちらなのかわからないが、心臓が激しく鼓動し、今にも破裂しそうなほどだ。

俺の耳に届くのは、近くの線路を走る電車の音ではなく、か細い恵里奈の涙交じりの声。


「健ちゃ…ごめん、ね…」


グスッと鼻を啜りながら涙を流す恵里奈を、制服姿の見知らぬ男が慰めるように抱き寄せていて。
恵里奈の手は、しっかりとその男のブレザーを握っている。


「バーカ。恵里奈のくせに気遣ってんじゃねぇよ」


仲睦まじ気な二人の姿に、眉を寄せる。

健ちゃんって誰だよ…
名前で呼び合うほど仲が良い奴がいるなんて聞いたこともない。

俺の中に芽生えた嫉妬、そして独占欲。
視界にどす黒いモヤがかかり、俺は二人から目を背けた。





「剛っ!」


店に戻ると、慌てた様子でハルが駆け寄ってくる。

店には客が少なく、カウンターに常連客と仕事終わりの柚姫ちゃんと迎えにきた卓人が座ってるだけで、京子は帰ったようだ。



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