ふわ恋。〜一番の恋を貴方と〜
家から出てきたのは、声だけでなく顔も恵里奈にそっくりのお母さんだけで、恵里奈の姿はないようだ。
「こんばんは。突然申し訳御座いません」
「いいえ。恵里奈から年上の彼氏が出来たって話は聞いております」
「こちらこそ、今までちゃんとご挨拶もせずにすみません」
やっぱり親子だな。
ふふ、と目を細くして笑う姿は恵里奈そのもので、俺の緊張を少し解してくれる。
「ごめんなさいね。あの子、まだ帰ってきてないのよ」
「え?あ…そう、ですか」
まだ健と一緒にいるのだろうか。
俺の中に黒いモヤが掛かり始めた時。
「並木さん⁉︎」
閑静な住宅街に、恵里奈の酷く驚いた声が響いた。
振り返ると、そこには目を丸く見開いた恵里奈と俺を睨むように見る健の姿がある。
「どうして家に?」
「…ちょっと話があって。今、少しいいか?」
「あ…えっと」
恵里奈は困ったように視線を右往左往させる。
何だよ、その反応…
健とは一緒にいれて、俺とは嫌なのかよ。
少しイラッとするものの、ヤキモチを妬いてるなんてダサいこと悟られたくない俺は、気持ちを落ち着かせるように軽く息を吐いた。