ふわ恋。〜一番の恋を貴方と〜
Ⅴ.準備期間
□■□
夜の高速道路を30分程走ると、海水浴で有名は街で降りた。
海岸沿いを進み駐車場に車を停め、エンジンを切る。
始終無言でラジオの声しか聞こえなかった車内が更に静まり返り、恵里奈の緊張と戸惑いで震える心臓の音が聞こえてきそうだ。
「ちょっと歩くか」
俺と目が合うと、すぐに視線を泳がせた恵里奈は、コクンと小さく頷いた。
今は二人きりの密室よりも外で話した方が、恵里奈も幾らかいいだろう。
「寒いからこれ着てけ」
後部座席に置いてあった自分のコートを恵里奈に渡す。
冬の夜の海は底冷えするような寒さだ。
お洒落なのか、恵里奈はこの季節にしては少し薄着な気がする。
風邪を引かれては困る。
「…ありがとうございます」
ボソッとお礼を言うと、コートに腕を通す。
座っててもわかるぐらい俺のコートは恵里奈には大きくて、袖なんか指先まで隠すほどだし、ファスナーを上まで上げると顔が半分隠れてしまう。
自分のワイシャツを彼女に着せると、ワンピースのようになって堪らなく可愛いとよく言うが、なんとなく今ならその気持ちが分かる気がする。
やや赤くなった顔がバレる前に、一度咳払いをすると車から降りた。