ふわ恋。〜一番の恋を貴方と〜
数秒の沈黙。
そして、京子は目を閉じると「そう…」とコーヒーカップを握り締めた。
「結婚するの?」
「ああ。まだ高校生だし、すぐには無理だけど、あいつが社会人になったらな」
「だけど、剛の本心では今すぐにでもしたいって感じね」
「うっせ」
俺の胸の内を簡単に読まれて、思わずふっと苦笑いを漏らした。
「私と付き合ってた頃は結婚なんて言葉出たことなかった。あんなに長い間一緒にいたのに、一度も」
コーヒーの水面をジッと見つめる京子の姿に息を飲む。
瞳が揺れたのは、多分気のせいじゃないだろう。
「…あの時は、俺もお前も若かった」
「そうね。まだ気持ちにもそんな余裕なかった。自分のことでいっぱいいっぱいで」
「ああ…そうだな」
思い出す。あの頃のことを。
一流のパティシエになるために、朝から晩まで働いて、時間の合間を縫って商品を考えて。
下っ端だったあの頃は、仕込みから後片付けまでやっていたし、寝る時間なんてほとんどなかった。
もちろん休みだってない。
正直、結婚なんて考えたこともない。
とにかく、精一杯だった。