人見知りのキリスト
少年は今から28年の時空をさかのぼり、再びかまくらの中で目を覚ますことだろう。

健ちゃんと交わした約束を思い出し慌てて飛び出そうとするが、ハタと足を止める。


――キリストのおじさんが言ってたな、焚き火があるから気をつけろって。


恐る恐る、かまくらから顔を出すと、案の定そばで焚き火が燃えていることに気付く。

ヤツは紅蓮の炎を慎重に回避しながら表に出て行くことだろう。

無事健ちゃんと落ち合った少年は小学校の校庭に赴き、二人して雪合戦に興じる。

どうせなら、雨あられのごとく雪の塊を健治にぶつけてやって欲しい。


家では母の芳江が消えかけた焚き火に火を灯しながら、くたくたになって帰ってくる息子を待っているはずだ。


そして、母はこう言う。



「澄人、寒かったでしょ。ほら、焚き火にあたりなさい」
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