人見知りのキリスト
賛美歌を歌う聖歌隊に視線を向けると、その中にシスターの姿をした母がいた。



――あ!? やっぱり、母さんだ!




28年の星霜は芳江をそれなりに老けさせているはずだったが、自分の記憶の中にいる昔の母と何ら変わらない様に見える。


溢れ出そうになる涙が網膜に映る映像を曇らせているのか。



 "オードリーは母だった"



28年前に家を追い出され、聖職に身をおいた芳江。

彼女は今、シスターになっている。

迷える子羊たちを救うシスターに。



"救われなければいけないのは、あなたですよ。母さん"



このミサが終わったらゆっくり話そう、

そして詫びを言いたい。


荘厳で透き通った歌声が心に染み渡っていった。
< 196 / 216 >

この作品をシェア

pagetop