人見知りのキリスト
――もう、よそう。



沸点へと達しそうになった怒りと悔恨を、俺は渾身の自制心でねじ伏せた。


もう過去にこだわるのはやめたんじゃないのか。



桐生澄人よ!



振り返っても何も変わりはしないのだ。


未来を真剣に見つめろ。


ひたすら前に進め。



これ以上、悪くなることはない。




いや――



"きっと良くしてみせる"




俺は澄人少年と、亡き母に誓った。




波間に漂っていた『イナズマ仮面』はやがて波頭に飲み込まれ、海中に没した。



愛用のレイバンを外し胸ポケットに突っ込むと、俺は大きく胸をそらせ、ひとつ深呼吸をした。


〈了〉
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