人見知りのキリスト
ゴーストライターでなく刑事になっても、そこそこいい仕事をしたかもしれない。


罪を憎んで人を憎まず、


その名もキリスト刑事(でか)――悪くないネーミングだ。


もっとも、この風貌の男を警察が雇ってくれるかどうかはわからない。

いや、むしろ、普段は官憲から怪しまれているフシすらある。

近所の派出所に勤務している若い巡査など「このあたりで何かあったら真っ先にお前を取り調べてやるぞ」と言わんばかりに、いつも俺を睨みつけてくる。


普段から街中で職質を受けることも多い。



「あなた、その鞄の中身は?カッターナイフとか入っていませんか?」



初めのころは、善良な一市民として抵抗を試みたりもした。



「お巡りさん。あんたも暇だね。道行く人に片っ端からそうやって聞いて回ってるのかい?」



あとの展開は相場が決まっていた。
権力の末端に位置する巡査のプライドをいたく傷つけた俺は、最寄の交番に連れて行かれ、むりむりショルダーバッグをご開帳させられた。
無論、ナイフも麻薬も、水鉄砲の一つすら入っていない。
もっとも、巡査が悪びれる様子は一切無かった。



"はい、ご苦労様でした。ご協力感謝します"



俺も今ではすっかり大人になった。
警察の嫌がる"無駄な抵抗"は一切しないよう心がけている。
いちいち真面目に相手をしていたのでは、おちおち外を歩くことも出来ない。



「お父さんの隣の部署で働いてるんだ。それより、お前、ここで何やってる?」



――坊主、今度は俺が取り調べる番だぞ。キリスト刑事を舐めるなよ。
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