真っ直ぐ歩けばー星ヶ丘高校絵巻ー
「鷺原さんの名前で呼び出して、すみませんでした。」


「彼女以外の誰かが来ると思っていた。

鷺原が、俺を手紙で呼び出すなどとは思えないし、

それに筆跡が違っていた。」


最初からバレていたのか。

でも、かまわない


少し考えればわかることだ。


あたしは黙ったまま、遠野さんを見つめ返した。


「それで、俺に何か用か?」

「遠野さん、あたしのこと覚えてますか?」

あたしの質問に、遠野さんは一瞬、意外な

ことを聞かれた、という顔になった。

それから、少しだけ目を細めてあたしを見た。

「ああ、覚えている。俺にぶつかってノートをぶちまけた、一年生だろう?」

遠野さんが口元だけで、小さく笑う。

だけど、あたしは笑わなかった。


覚えていてくれた。

不覚にも、あたしはそれだけで涙が

こぼれそうになる。


だけど、ここで泣くわけにはいかない。

口がやけに乾く。

あたしは唇を舐めた。
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