真っ直ぐ歩けばー星ヶ丘高校絵巻ー

「鷺原さん、きっと傷つきましたよね…。」

あたしは一番気になっていた事を

口に出した。

あたしだったら、耐えられない。

あんな張り紙…。


ホント、卑怯だ。


だけど、遠野さんは「鷺原が?」と

意外そうな声で、聞き返した。

あたしは何かおかしなことを言ったのか

と、思わず遠野さんを見つめる。


「あいつは、あんなことで傷つく

ようなタマじゃない。」

遠野さんは、おかしそうに笑いながら

続ける。

初めて見た優しい笑顔。


私にではない、ここにいない人を


想っての笑顔だ。


「君が鷺原のことをどう思っているのか

知らないが、あいつは君が思っているより

ずっと、図太くて強い。

恐らく、君よりもずっとな。」


君が直接会って確かめるといい。

遠野さんは、そう付け加えた。

鷺原さんのことを話す遠野さんは、

いつものきつい雰囲気では全然なく

ああ、彼女を本当に大切に思っている

んだな、とあたしはぼんやりと思った。


もうすぐ授業が始まるぞ。


遠野さんは、あの時と同じように


何事もなく歩いて行ってしまった。